-うつわたび 宮坂さんのうつわ選び-

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魯山人のうつわも使わなければ意味がない。「宮坂」が考えるうつわとの付き合い方


食とうつわを巡る旅としてスタートした「うつわ羇旅 UTSUWA KIRYO 」。


第二回目の うつわ たび は、うつわの使い手である料理人と会って、それぞれのうつわの考え方、うつわ選びを伺ってきました。


表参道の駅からほど近い閑静な場所に店を構える日本料理の宮坂。都内の和食店で11年、京都の名店で10年にわたり研鑽を積んだ宮坂 展央さんが独立してオープンした。大切にしているのは、旬の食材を使って奇をてらわず、日本料理本来の調理で季節の味や風味を引き出すこと。骨董や現代の陶芸家のうつわが料理を一層際立たせている。今回は宮坂の店主である宮坂 展央さんに、うつわとの出会いや選び方について聞いた。聞き手は宮坂さんと親交がある作家の本田直之さん。


宮坂 展央さん instagram @miyasaka_minamiaoyama

1974年生まれ、東京都出身。東京都内の和食店で11年。京都の名店にて10年にわたり研鑽を積んだ。数々の食通を唸らせてきた「御料理宮坂」が、2021年11月に現在の場所に移転し新たに屋号を「宮坂」としてオープンした。東京表参道駅近くの閑静な場所でその腕を存分にふるう。



京都で修行中に「日本料理とうつわは切っても切り離せない」と知る


本田:ノブ(宮坂さん)がうつわに興味を持ちはじめたのはいつ頃?


宮坂:元々興味はあったけど、修行で京都のお店で働きはじめてから本格的に興味を持つようになりました。京都は良いうつわを使っている店が多く、こんなに種類があるのだと驚きました。日本料理とうつわは切っても切り離せない関係であると知ったんです。


本田:最初は全然わからないでしょ?


宮坂:わからなかったので、ひたすら勉強しましたね。


本田:どんな勉強をしていたの?


宮坂:まずは店で使ううつわの種類をノートにすべて書き出して覚えました。それ以外には、道具屋さんに行ってお店の人から教えてもらったりして、焼き物の種類を覚えていきました。


本田:そういうことは大事だよね。


宮坂:修行していた店には陶芸家の方が来ることもあり、交流しながら知識を増やしていったんです。休日は京都中の美術館に行って本物を見て勉強しました。


本田:美術館に置いてあるようなものは、お店にはないよね?


宮坂:全然違うんですけど、店で使うものはすべて書き出してチェックしていました。器を揃える準備をしながら、ノートに書き出して覚えました。


本田:とんでもない数だよね。その経験は大きいね。その頃から、うつわを買いはじめたの?


宮坂:高価なものは買えなかったですが、顔見知りの道具屋さんに行って購入していました。


本田:自分でお金を払って買うから学びになりそうだよね。


宮坂:興味をもつようになりますね。


本田:自分のお店をもってからは、どんな風にうつわを選んでいる?


宮坂:あらかじめ道具屋さんに「こんなものが欲しい」と伝えておいて、入荷したら連絡をもらうこともあるし、お店に行ってたまたま欲しかった感じのうつわに出合うこともあります。僕の場合は骨董を買うことが多いので、気に入ったものがあったらその時に買わないと、もう二度と出会えなかったりするんですよね。


本田:骨董以外に、現代のうつわを買うこともある?


宮坂:唐津焼に関しては僕の恩人でもある岡本作礼さんという作家さんのうつわを多く使っています。そのほかの現代のうつわもフィーリングで選んでいて、骨董と一緒にコースの中に組み入れて使っています。

「ちょうどこんなうつわが欲しかった」というものに出会えたり、欲しいうつわのイメージが明確にあるときには作ってもらうこともありますね。



本田:詳しくなって知識が身につくと、作ってもらったりもできるんだね。うつわはどこに収納しているの?


宮坂:ストックする個室があるのでそこに置いたり、カウンター内の棚の中に入れています。例えば、9月に使う魯山人の菊の器など特定の月にしか使わないものもあります。


本田:うつわは値段が張るものもあるから、はまってしまったら大変だね。


宮坂:そうですね(笑)ただ、良いうつわで食事をすると気持ちがとても豊かになるんですよ。日本料理は、食材はもちろんのこと設えや空間なども大事だと思っています。



日本料理の料理人は、お茶を学ぶ中で所作を身につける


本田:うつわによって料理の印象は変わるもの?


宮坂:変わりますね。うつわにあまり興味がなさそうなお客様でも、良いうつわで料理を提供すると驚いてくださいます。

昔は料理人と陶芸家の距離が近く、料理人が「こんなものを作ってほしい」と注文をして、陶芸家が切磋琢磨して育っていく文化があったそうです。そういう交流をもっと増やしてもいいのかもしれないですね。

料理人だけでなく、お茶をする人は陶芸家に茶道具を作ってもらうこともあります。


本田:日本料理は学ぶことが多いんだね。


宮坂:京都ではお茶を学んでいる料理人が多いですね。
お茶を学ぶ中でお花や設えなど勉強になりました。


本田:俺も最近寿司を習ったけど、所作は人によって全然違うよね。


宮坂:所作のきれいな人がいると引き込まれますね。


本田:なるほどね。うつわによって料理の価値は変わると思う?


宮坂:もちろん変わりますが、料理とうつわが互いに引き立て合うのがいいですね。

実は歳をとったら、良いうつわでアラカルトで提供する店をやってみたいんですよね。

いつかそんな店をやるのも面白いかなって思うんです。普段はつくらない料理もできるし。


本田:それは面白いね。



設えと季節感とよいうつわ。すべてが揃ってはじめて日本料理と言える


本田:うつわの好みは少しずつ変わっていくものなの?


宮坂:好みは変わるけど、修行時代に買ったものも最近買ったものでもどちらも思い入れはありますが視野が拡がるという感じです。



本田:うつわを買いに行くときは予算を決めていくの?


宮坂:はい、もちろん。上限を決めないと大変なので(笑)


本田:予算をオーバーしていても、買ってしまう時もある?


宮坂:たまには(笑)でも気を付けてます。


本田:すごい世界だね。ストックしているうつわの価値がすごそうだ。


宮坂:自分の料理を表現する上でうつわは切っても切れない存在なんですよね。

 

本田:そこまで拘ったうつわを使っていると、スタッフに洗い物を任せられるの?


宮坂:そこはスタッフを信じて任せてます。



本田:金継ぎもしたりするの?


宮坂:もちろん思い入れもある大切な器なので、金継ぎして大事に使ってます。


本田:最近お気に入りのうつわを見せてほしいな。


宮坂:最近購入した350年前の古染付や南京赤絵です。

他にも魯山人の兜鉢も気に入っています。



本田:すごいな…!どれも取り扱いに神経を使いそうだね。


宮坂:はい、器に限らずお店で使う道具の取り扱いには神経を使ってます。うつわを下げるときは必ず手で受けるなど、先輩から持ち方をさんざん指導されますから。僕も「軽いものほど重く扱え」とよく先輩に言われました。



本田:うつわが日本料理にとっていかに大事かわかった。今日はありがとう。

 

撮影:村上洋平
取材:本田直之、うつわ御結
文 :久保 佳那

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